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「羽村さんと、またなにかあった?」
化粧室の鏡の前でリップを塗り直す紗羽と鏡越しに目が合うと、紗羽は小さく首を傾げる。
「………私って、そんなにわかりやすい?」
「私にはね」
紗羽が眉を下げて笑うと、パチと音を立ててリップの蓋を閉める。
この間のコーヒーショップでの出来事とズルいキスのことは、すでに紗羽には報告済み。
だけど、あの日の出来事はまだ何も知らないまま。
「………この間、桐生さんにお断りしたあと、タクシーでアパートまで送ってもらったんだけど………。その、降りる時にキス……されそうになって……あ、ちゃんと避けたよ?……してはないんだけど………その場面を壱吾に……」
「もしかして、見られたの?」
洗面台の横の壁に背を預け、少し驚いたように目を見開く。
「……うん。しかも壱吾は、私が桐生さんとキスしたと思ってる」
壱吾とはあれ以来、会ってもいないし連絡もとっていない。
あんなことがあって何を言えばいいかわからず、日にちだけが過ぎていく。
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