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結局、まだ壱吾には何も訊けずにいる。
顔を合わすのも本当に久し振りで、姿を目にしただけでこんなにも心臓が煩く動き始める。
「あ、やっと羽村来たね」
壱吾が来たことに気付いた桐生さんがそう言うと、瑞妃もドアの方へと視線を向けた。
私だけ視線を下に向けると、桐生さんは何かに気付いたように耳元で小さく囁く。
「羽村、こっち来るよ」
グラスに落としていた視線をゆっくり上げると、こちらに真っ直ぐ向かってくる壱吾と目が合う。
身動きひとつ取れない私は、やがて目の前に立つ壱吾を見上げた。
「香音」
みんなのいる前で、堂々と私の名前を呼ぶ。
「話があるんだけど」
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