〈過去〉19歳・初夏

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何往復かしたところで、壱吾がクスと笑いを零す。 「ふ、……くすぐってー」 それでも髪を触り続ける私に、壱吾は顔を上げた。 「満足した?」 「うん。…壱吾の髪って、柔らかいね」 最後にわしゃわしゃと掻き乱すと、見事にボサボサになった髪を見て笑いが込み上げる。 「充電、出来た?」 そう言いながらボサボサにした髪をきれいに整える私に、 「まだ足んない」 壱吾は口の端を釣り上げながら、じぃと私を見つめる。 ………嫌な予感がする。 逃げ出したい思いに駆られるも、腰に回された壱吾の腕がそれを逃さない。 「香音からキスしてくれたら、もっと元気になるかも」 「……それズルくない?」 目を細め、眉を寄せる私を急かすように、また一段と身体を密着させる。 ずいぶんと伸びた私の髪が、ハラ…と壱吾の肩に触れると、ゆっくりと腕を首に回し、そっと唇を合わせた。
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