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部屋にはドライヤーの音だけが響いて、少しすればその音さえも鳴り止んでしまう。
「ん。もういいよ」
「………ありがと」
乾かしてもらったばかりの髪を手櫛で整えていると、首に腕が回り、背中に重みを感じた。
「で。覚えてないのが、そんなに不満?」
耳元で壱吾の低い声が響くと、スリ、と私の髪に頬を擦り寄せる。
「………別に」
「冗談に決まってんだろ。ちゃんと全部覚えてるよ」
ゆっくり顔だけを後ろに向けると、壱吾はふっと何故か嬉しそうに笑う。
「ぷ。…顔、ひでぇ」
冷たい眼差しに口をへの字に結ぶ私の頭をポン、と優しく叩くと「ちょっと待ってて」と言って、ベッドから降りた。
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