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パチパチと何度か瞬きを繰り返しながら、私は壱吾の言葉を待つ。
「今日初心に戻るっつったけど、忘れてることない?」
「忘れてること……?」
「ほら、映画を観終わったあと、雑貨屋行ったろ?」
私は小さく頷くと、壱吾が何を言いたいのか少し考えたあと「あ!」と、声を上げる。
「……苺のシャーペン?」
言葉の代わりにニコっと微笑む壱吾は、そっと私の手を離す。
「香音、両手出して」
「……こう?」
言われたように手のひらを上に向けて、壱吾の前に差し出す。
「で、目瞑って。俺がいいって言うまで開けんなよ?」
「なにそれ。また苺のシャーペンくれるの?」
ふふっと笑えば壱吾に「そうだよ。いいから目瞑れ」と急かされ、私はそっと瞼を閉じた。
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