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壱吾の口から零れた言葉に、ドキ、と心臓が跳ねる。
…………ホンモノって、そういう意味……だよね?
壱吾は箱から指輪を抜き取ると、目を丸くしたまま固まる私の右手にそっと触れた。
「………ハタチになったっていってもさ、今の俺にはなんにもできねーし、こんなことくらいしか言えねーんだけど」
壱吾の指が私の右手の薬指にゆっくりと指輪をはめていく。
私はその動作をただひたすらに眺めていると、「お、よかった。ぴったり」と、壱吾が少しホッとした顔を覗かせる。
「これから香音は俺より先に社会人になって、いろんなことを経験して、社会の厳しさとか楽しさを知ってくだろ」
スリ、と親指で指輪をひと撫ですると、そのまま右手は壱吾の手に包まれる。
「今とは環境もガラッと変わるしさ。会えなくてすれ違うことも多いだろうし、喧嘩だって今より増えるかもしれない」
今と同じじゃいられないことはわかっていたつもりだったけど、いざ言葉にされるとなんだか急に心細くなる。
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