〈過去〉19歳・初夏

27/78
前へ
/747ページ
次へ
徐々に視界が滲み、向かい合って座る壱吾の顔がぼやけて見えなくなる。 喉の奥がキュッとなって、下唇を噛みしめる。 「香音、……返事聞かせて?」 返事をしたいのに頷くしかできない私を壱吾は引き寄せ、優しく抱きしめる。 「っ、……待、ってるぅ………」 「ハハ。……うん、ありがとう」 次から次へと零れる涙が頬を伝って、壱吾のTシャツを濡らしていく。 「………壱吾、……っ、大好き!」 「………俺も」 優しく私を包む腕が解けると、顔を覗き込む壱吾の大きな手が涙を拭い、頬をひと撫でする。 「……一生離れるつもりないから、ずっと俺のそばにいろよ?」 「約束するっ!絶対絶対離れない!一生一緒だからねっ」 泣き笑いを浮かべる私の目尻にキスを落とすと、そのまま瞼へ頬へと順に触れていく。 抑えきれない想いを互いに確かめるかのように、最後は唇に深く口づけた。
/747ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2053人が本棚に入れています
本棚に追加