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「あ、北見さん。もう一個いい?」
「はい。シフトチェンジですか?」
津坂さんは右手に持ったペンを器用にクルッと回してから、口を開く。
「和田くんのことなんだけど、……大丈夫?」
「あー……、いつものアレですよね?もう毎回のことなんで慣れちゃいました」
少し困ったように笑う私とは反対に、津坂さんの表情はどこか浮かないまま。
「もし我慢してるなら、俺から言おうか?」
「ありがとうございます。…でも大丈夫です。ああやって言ってきても、待ち伏せされたりするわけじゃないので。和田さんにとっては、挨拶みたいなものだと思います」
津坂さんに言ったことは、決して嘘じゃない。
何度も何度もしつこく誘われることはないし、断ればそこで引いてくれる。
だから誰もあれが本気だとは思わないし、私も深く考えることをしなかった。
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