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「でもあれだな。警戒されない程度のアピールじゃ全然ダメだわ。全く意識してもらえない」
腕を組み、自分自身に言い聞かせるようにウンウンと頷くと、和田さんはゆっくり近づき、私の前に立つ。
「彼氏と別れて、俺と付き合ってよ」
突然突きつけられた言葉に少なからず戸惑う私は、手袋の箱を持つ手に力が入る。
「……な、に…言ってるんですか……冗談キツいですよ」
「今まで冗談なんて、言ったことないけど」
見上げた和田さんは、ゾクっとするほど真剣な瞳で私を見下ろしている。
さっきまで浮かんでいたはずの笑みは、欠片もなく消えていた。
「………ごめんなさい。和田さんとは…お付き合いできません。……私が好きなのは壱吾なので……」
そう言って逃げるように和田さんの隣をすり抜けようとすると、和田さんの腕がそれを阻む。
「……手、どけて下さい」
「どけたら逃げるでしょ」
次の瞬間。
カチャンーーと、鍵の閉まる音が私の耳に届いた。
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