〈過去〉19歳・初夏

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「悪い。待たせた」 少し息を切らせた店長が、こちらに向かって歩いてくる。 その表情は津坂さんと同様にかたい。 「………北見、大丈夫か?」 「……はい」 店長は津坂さんの隣に椅子を並べて座ると、深い溜息を吐いた。 「こんなことになって申し訳ない。……和田本人の希望通り、店は今日付けで辞めることになったから」 ギシ、と椅子が軋み、静かな事務所に響く。 「北見はどうする?……元々来月末で辞める予定なんだ。残りのシフトくらいどうにかするし、辞めるのが少し早まっても平気だぞ?」 ………正直、笑顔で接客出来る自信はない。 お店は辞めても、お客として和田さんが絶対来ないとも言い切れない。 でも……… 「………お店には、迷惑かけたくない…です」 このバイトが、このメンバーが大好きだった。 ここで働かなければ壱吾にも出会えなかったし、私にとっては大切な場所。
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