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「送らなくて平気?」
「はい。すぐそこに姉が迎えに来てくれているので」
裏口へ向かう廊下を津坂さんと並んで歩く。
……いや、並んでというには随分距離は空いているんだけども。
「…………本当に、助けるのが遅くなってごめん」
津坂さんが何度目かの謝罪をしたあと、ポツリと零す。
「………羽村くんに頼まれてたのに。俺、肝心なところで役立たなかったね」
両手をカーディガンのポケットに突っ込み、首に巻き付けたマフラーに口元を埋める。
無言で進む廊下には、二人分の足音だけが響いていた。
「…………本当に、羽村くんには言わないつもり?」
裏口の扉前で取っ手に手をかけた津坂さんが、扉を押し開ける前に私を見る。
「……はい。だから津坂さん、何があっても壱吾には絶対に言わないで下さい。お願いします」
私がハッキリとそう言えば、困った笑みを浮かべ、それでもしっかりと頷いてくれる。
「………わかったよ」
「ありがとうございます」
私は津坂さんに御礼を述べ、お店を後にした。
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