小さな嘘。

〈過去〉19歳・初夏

その日の夜。

大体いつも同じ時間に私の携帯は震える。
画面を見なくても、かけてくる相手はただ一人。
いつもならすぐに通話ボタンを押すのに、今日は画面を眺めたまま動けない。

壱吾の声は聴きたいのに、どんな声で話せばいいかわからない。
いつも通り振る舞おうと思えば思うほど、いつも通りがわからない。

こんなんじゃ、すぐに何かあったことが壱吾にバレてしまう。
それだけは絶対に避けたい。

震え続けた携帯が、ピタと止まる。
間を開けずにメッセージの受信を告げる音が鳴ると、私はそっと携帯に手を伸ばした。

『寝た？』

その短いメッセージに返信することもなく携帯の画面をベッドに伏せると、私はそっと目を閉じた。