〈過去〉19歳・初夏

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壱吾の言葉に、私の頭の中はハテナマークが飛ぶ。 確かに今日は壱吾の言うようにバレンタインデーなんだけど……。 それが何故、オムライスに繋がるのかわからない。 「え、わかんない?日頃の御礼のつもりなんだけど。……それにバレンタインは男がやったらダメだっつー決まりなんてねーだろ?」 ……つまり、逆チョコってやつ? こんなの想像もしていなかったからビックリしたけど、あとからじんわりとした嬉しさが込み上げてくる。 「………ありがとう」 「どういたしまして。…俺こそ、いつもありがとう」 照れ隠しなのか、壱吾は目を合わせずにスプーンを口に運ぶ。 壱吾の気持ちが嬉しくて幸せなはずなのに、オムライスを頬張るたびに小さな罪悪感が襲う。 大好きな人に秘密が出来たことが、 これから隠し通すためにつく嘘が、 こんなにも辛いなんて。 私は今日、初めて知った。
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