〈過去〉19歳・初夏

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「……明日、朝イチでバイト入ってるし……」 私を見上げる壱吾の瞳から思わず視線を逸らしてしまい、どこか取ってつけたような笑みを浮かべながらマフラーを首に巻く。 「ここから行きゃいーじゃん。つか、」 グイ、と腕を強く引かれ、バランスを崩した私は、壱吾の腕の中にすっぽりと収まる。 「久し振りに会ったのに、もう帰るとかなに?……まだ帰したくねーんだけど」 ギュっと抱きしめられれば、壱吾の匂いが鼻を掠める。 壱吾の腕の中はとても居心地が良くて、安心する。 スリ、と壱吾の胸に頬を擦り寄せると、私を包む腕が緩み、そっと唇が重なった。 触れるキスが次第に深いキスに変わる。 角度を変え、甘さを増して私を溶かしていく。 キスを交わしながらゆっくりとその場に押し倒されると、 「…………いい?」 マフラーを解きながら耳元で低く囁き、そのまま耳朶を舐め上げる。 その瞬間。 フラッシュバックのように蘇る、あの日の出来事。 「……っ!やっ…!」 気付けば思いっきり胸を押し返し、壱吾を拒絶した私がいた。
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