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「……明日、朝イチでバイト入ってるし……」
私を見上げる壱吾の瞳から思わず視線を逸らしてしまい、どこか取ってつけたような笑みを浮かべながらマフラーを首に巻く。
「ここから行きゃいーじゃん。つか、」
グイ、と腕を強く引かれ、バランスを崩した私は、壱吾の腕の中にすっぽりと収まる。
「久し振りに会ったのに、もう帰るとかなに?……まだ帰したくねーんだけど」
ギュっと抱きしめられれば、壱吾の匂いが鼻を掠める。
壱吾の腕の中はとても居心地が良くて、安心する。
スリ、と壱吾の胸に頬を擦り寄せると、私を包む腕が緩み、そっと唇が重なった。
触れるキスが次第に深いキスに変わる。
角度を変え、甘さを増して私を溶かしていく。
キスを交わしながらゆっくりとその場に押し倒されると、
「…………いい?」
マフラーを解きながら耳元で低く囁き、そのまま耳朶を舐め上げる。
その瞬間。
フラッシュバックのように蘇る、あの日の出来事。
「……っ!やっ…!」
気付けば思いっきり胸を押し返し、壱吾を拒絶した私がいた。
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