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「………香音?」
その声にハッとして顔を上げれば、少し驚いた瞳で私を見下ろす壱吾がいた。
「……っ、ごめっ……違うの!その…ちょっと風邪気味で……ほら!壱吾にうつすわけにもいかないし。…………ご、ごめんなさい……」
………どうしよう、手が震える。
胸の前で両手をギュッと握りしめ、震えを必死で隠す。
こんな嘘で誤魔化せたかわからなくて、壱吾の目を真っ直ぐに見ることが出来なかった。
「……そんな謝ることじゃねーだろ」
ゆっくりと身体を起こすと、壱吾の手が私のおでこに触れる。
「ん、熱はないな。…ほら、暖かくして」
壱吾は解いたマフラーを口元まで覆うように巻き付けると、キュッと首の後ろで結ぶ。
「あのさ、具合悪いとかそういうことは早く言えよ。無理して会わなくたっていいんだから」
「っ、無理したわけじゃ……………、だってバレンタインだし……。チョコ渡したかったんだもん………」
壱吾に会うのが怖かったのも本当。
だけど、
今日どうしても壱吾に会いたかったのも本当。
「………っんとに、こっちの気も知らないで」
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