〈過去〉19歳・初夏

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「………香音?」 その声にハッとして顔を上げれば、少し驚いた瞳で私を見下ろす壱吾がいた。 「……っ、ごめっ……違うの!その…ちょっと風邪気味で……ほら!壱吾にうつすわけにもいかないし。…………ご、ごめんなさい……」 ………どうしよう、手が震える。 胸の前で両手をギュッと握りしめ、震えを必死で隠す。 こんな嘘で誤魔化せたかわからなくて、壱吾の目を真っ直ぐに見ることが出来なかった。 「……そんな謝ることじゃねーだろ」 ゆっくりと身体を起こすと、壱吾の手が私のおでこに触れる。 「ん、熱はないな。…ほら、暖かくして」 壱吾は解いたマフラーを口元まで覆うように巻き付けると、キュッと首の後ろで結ぶ。 「あのさ、具合悪いとかそういうことは早く言えよ。無理して会わなくたっていいんだから」 「っ、無理したわけじゃ……………、だってバレンタインだし……。チョコ渡したかったんだもん………」 壱吾に会うのが怖かったのも本当。 だけど、 今日どうしても壱吾に会いたかったのも本当。 「………っんとに、こっちの気も知らないで」
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