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「明日、バイト無理すんなよ?」
「……うん。ありがと」
家の前に辿り着いた私達は、お互いに離れるタイミングを探り合うように沈黙する。
「……ほら、早く家入れって」
「………うん。…じゃあ、おやすみなさい」
そっと離された手で壱吾に手を振り、背を向けた私が家の門を開けたとき。
「………なぁ、なんかあった?」
その言葉に、一瞬で全身が固まる。
ピクリとも動けずにいる私は、なんとか絞り出した声で問いかけた。
「………な、んで?」
「必死で隠そうとしてるから黙ってたけど、今日、ずっと元気ないだろ」
大きな音で波打つ胸の音を感じながら、頭の中は壱吾への言い訳を必死で探す。
少し沈黙が続いたあと、私はそっと口を開いた。
「……やっぱり壱吾には、わかっちゃうんだね」
私はグッと手に力を込めてから、穏やかな笑みを浮かべて壱吾の方へ振り向いた。
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