〈過去〉19歳・初夏

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夜空に浮かぶ月と外灯が私達を照らす。 「就活、うまくいかなくて。…ほら、もうこんな時期なのに内定も出ないし。さすがに焦って、落ち込んじゃっただけ」 内定が出たことを内緒にしていたのは壱吾を驚かせたかっただけで、こんな嘘をつくためじゃなかったはずなのに。 壱吾は少し目を伏せ、私にかける言葉を探す。 「……悪い。何も気付いてやれなくて」 「ううん。壱吾には、気付かれたくなかったの。……だからね、しばらく会えないと思う」 努めて明るくそう口にしたけど、最後が少し震えた気がした。 「………しばらくって、どれくらい?」 「内定が出るまで、かな」 私はズルい。 こう言えば、壱吾が何も言えないことをわかっていて口にするんだから。 「そういうことなら仕方ないけどさ。……もっと早く言えよー」 両手をダウンのポケットに突っ込み、呆れ顔を見せる。
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