〈過去〉19歳・初夏

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ーーー朝、8時。 壱吾のアパートのインターフォンを押す。 一ヶ月半近くぶりの壱吾のアパートは、私が最後に出た時と何も変わっていない。 「……出ない。まだ寝てるかな」 もう一度インターフォンを押せば、しばらくしてから鍵が外れる音と一緒にドアが開いた。 「かのん…?」 「おはよ。寝てた?」 上下黒のスウェット姿で、髪には寝癖。 眠そうに目を擦ると、大きな欠伸をひとつ零す。 「寝てた。…時間早くね?今日、午後っつってなかった?」 「うん。そのつもりだったんだけど、どうしても外せない用事ができちゃって…。迷惑覚悟で朝早く来ちゃった」 眉を下げて「ごめんね」と謝る私に、壱吾は早くドアを閉めろと急かす。 ガッチャン、と音を立てて閉まるのと同時に、私は壱吾の腕の中に閉じ込められた。 「…………会いたかった」
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