〈過去〉19歳・初夏

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壱吾に背を向けたまま告げた言葉。 どうしても顔を見て言うことは、出来なかった。 「は…?……意味わかんねんだけど」 「そのままの意味だよ。……壱吾と、別れたい」 「……なんで久し振りに会って、そんな話になるわけ?」 振り向かなくたって、私の腕を掴む力でわかる。 壱吾が怒っていることに。 「………会わない間、ずっと考えてた」 「……ハ、なんだそれ。会えないっつったの、就活のためじゃなかったのかよ?最初から別れるつもりで離れたってわけ?」 何も言わない私に、わかりやすく苛つきを見せる。 「………なぁ、黙ってたらわかんねえだろ。……答えろよ、香音!」 グッと掴まれた腕が痛い。 だけど、私なんかより壱吾の方がずっと痛いってわかっている。 「……そうだよ……」
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