小さな嘘。

最後の嘘。

零れそうな涙を必死に堪えようと下唇をきゅっと噛みしめると、

「………だから別れるしかなかった、って？」

そう低い声で呟き、大きな溜息が聞こえたかと思えば、突然大きな手が私の頬を包み、クイ、と上を向かされた。

「っんとに、バカだろ」

真っ直ぐに私を見下ろす瞳には、少し怒りの色が滲んでいる。
しっかりと合わせられた目線から逃れたくても、大きな手がそれを許してくれない。

「俺の気持ち、ナメすぎ」

気を抜けば、へにゃっと泣き顔に変わりそうな顔で壱吾を見つめる。

「俺が香音を嫌いになるわけねーだろ」

その一言が、私の涙腺を刺激する。
………やっぱり私はバカだ。
自分勝手に逃げて、諦めて、答えを出して。
もっと壱吾を信じればよかったのに。

「あの日から今日まで、一ミリだって嫌いになったことない」

そこで堪えきれなかった涙がポロ、と頬を滑り落ちた。