最後の嘘。

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………まるで壱吾と初めて観に行った、あの映画の中にいるみたい。 確かあの主人公も長い間お互いを想い合っていて、いろいろあったけど最後にはその想いが実を結んだ。 私はそのシーンが大好きで。 壱吾は呆れていたけど、DVDで何度も何度もその場面を観返してばかりいた。 いつか私も、…なんて想いを密かに秘めながら。 だから………今、私、幸せだな。 あんなに傷付けたのに……。 まだこんなに想ってもらえて、 こんなに自分を大事にしてくれる人には、きっとこれから先も出逢えない。 「…………あり、がと」 繋がれた手に視線を落とす。 私はこの手が、大好きだった。 壱吾の手の温もりを忘れないようぎゅっと握りしめたあと、そっとその手を振りほどいた。 「…………………ごめん…………」 静まり返る部屋の中で、誰かの啜り泣く声が耳を掠める。 「………なんで?」 ………本当は今すぐにでも、この腕の中に飛び込んでしまいたい。 私もずっと好きなんだよ、って言ってしまえばいい。 でも、 「………そんな資格……ない」
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