最後の嘘。

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私の自分勝手な嘘で壱吾を傷付けた。 何もかもなかったことにしてまた隣にいたいなんて、そんな都合のいいことできるわけがない。 「そんな理由、納得するわけーー」 「もうっ」 少し声を張り上げ、クッと顔を上げた私を、壱吾が納得のいかない目で見下ろす。 「…………壱吾を、傷付けたくないの。……触れられない辛さは………私だけでいい」 あの時。 大好きな人に触れられて、怖いと感じた。 一瞬でも壱吾の手を怖いと思った自分が許せなくて。 また壱吾を拒絶してしまったら…と不安で仕方がない。 「……触れられ…?ちょ、待って。よく意味が、」 「…………ごめん」 私はソファに置いていた鞄を手にすると、壱吾の横をすり抜け、部屋を飛び出す。 後ろは振り返らずにただ前だけを見て、想いを振り切るように駆け足で駅を目指した。
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