最後の嘘。

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いつも通りの朝。 制服に着替え、ロッカーの鏡で胸元のリボンを整えていると、更衣室のドアが開き、バタバタと騒がしく誰かが入ってくる。 「香音、いる!?っ、大変だよ!」 「有紗?なに、どうしたの?」 ヒョコっと顔を覗かせれば、慌てた有紗が勢いそのままで私の元へやってきて両腕をガシっ!と掴む。 「ハァ、……いい?お、落ち着いて聞いてよ?…あのね、羽村さん、転勤だって……」 「……へ?」 いきなり突きつけられた言葉を噛み砕くのに、少し時間がかかる。 ……転勤? まだよく状況が飲み込めていない私に、有紗は続ける。 「だからっ、羽村さん、広島に転勤なんだよ!私もさっき聞いたんだけど、今日、11時半の新幹線で行っちゃうって!」 呆然と立ち尽くす私の両腕を揺さぶり、必死な表情で見つめる有紗は、チラ、と腕時計を確認する。 「今、出ればまだ間に合うよ!香音、会いに行ってきなよ!」 ぐるぐると頭の中にいろんな思いを巡らせながら、私は首を横に振る。 「………行かない」
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