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その声にキョロキョロと辺りを見渡すと、ある一点に目が止まる。
その視線の先にはスーツケースを持った壱吾が、驚いた表情で突っ立っていた。
「………え、…香音、だよな?」
そう言いながら、スーツケースを転がして私の方へと近付いてくる。
「お前、なにしてんの?……つか、その格好……仕事中なんじゃ、」
次の瞬間。
言葉より先に、身体が動く。
足の痛みなんて忘れてベンチから立ち上がると、壱吾の胸めがけて思いっきり抱きついた。
「っと、……おい、香音どうした!?」
焦ったような声を頭上で聞きながら、腰に回した腕に力を込める。
伝えたい言葉は、たったひとつだけ。
「………………き」
「は?なに、よく聞こえねえ」
私の肩を壱吾が掴むと、ゆっくりと顔を上げる。
「…………壱吾が、好き」
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