最後の嘘。

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お互いの存在を確かめるように、しっかりと身体に腕を回す。 懐かしい匂い、体温、鼓動を感じながらしばらく抱きしめ合えば、突然「あ、」と何かに気付いたように耳元で壱吾が声を上げた。 「……悪い」 私を支える力強い腕が解けると、壱吾は少し心配した表情で私を覗き込む。 「……怖くねえ?」 「え?」 その言葉の意味を理解するのに一瞬ポカンとした顔を向けると、言いづらそうに壱吾が口を開く。 「いや、……その、…触れられるの嫌、なんだろ?」 それを壱吾が知っていたことに少し驚くも、すぐに誰から聞いたのかなんとなく想像がついた。 「……桐生さんから、聞いたの?」 「あー、まぁ……」 そう言って右手を首の後ろに置いて少し目を伏せると、 「………あの時は、ごめん」
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