最後の嘘。

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壱吾が言う"あの時"は、きっとソファに押し倒した時のこと。 「過去を思い出させて、怖い思いもさせた。勝手に勘違いして、香音にぶつけて、泣かせて。……俺、最低だった。本当ごめん」 謝る壱吾に私はブンブンと首を横に振る。 確かにびっくりもしたし、少し悲しくもあった。 あの出来事を思い出したのも、間違ってはいないけど……。 「…………嫌じゃ、なかった」 私を見つめる壱吾の瞳に、戸惑いの色が交じる。 「その、……他の人なら絶対無理なんだけど、壱吾だけは大丈夫っていうか。……あの時も怖いって思いながらも、壱吾なら…って思ったり……」 そこまで口にして、今、自分がとんでもないことを口にしたことに気付く。 ハッとして口元を押さえると、壱吾の様子を伺うようにそっと視線を上げた。
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