最後の嘘。

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言いたいことは沢山あるのに、涙が溢れてもう言葉にならない。 何度も何度も頷くことしか出来ない私の頭を、壱吾の温かく大きな手が優しく触れる。 「………っ、」 こんな私を受け入れて、こんなに想ってくれるのは、きっと壱吾だけ。 これから先、何があっても絶対にこの手は離さないと誓った。 そんな余韻に長く浸る暇もなく、ホームに新幹線の到着を知らせるアナウンスが響く。 急に忘れかけていた現実を突きつけられ、壱吾と離れてしまう寂しさに襲われる。 「………新幹線、来るって」 離れがたい気持ちを必死で抑えながら、ゆっくりと壱吾の身体に回した腕を解く。 「………気を、つけてね」 「うん」 遠目に見えた新幹線があっという間に目の前へ滑り込んでくる。 騒がしい音に紛れて、思わず「……行かないで」と小さな声で本音を零した。
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