最後の嘘。

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ゆっくりと新幹線が停車すると、ホームには人の波が溢れる。 「……乗らないの?」 「まだ離れたくねーな。ギリギリまで香音と一緒にいたい」 発車まであと5分。 私達が一緒にいられるのも、あとたったの5分だけ。 「ダメ。早く乗りなよ」 そうじゃないと、どんどん離れられなくなる。 時間なんか止まってしまえばいいのに……。 そんなバカみたいなことを考えてしまう。 「……わかったよ。じゃあ、行ってくる」 「……うん」 スーツケースを転がし、壱吾は私から離れていく。 新幹線のドアへ向かう背中を見て、私は咄嗟に腕を掴んだ。 「香音?」 後ろを振り向いた壱吾のスーツを引っ張ると、思いっきり背伸びをして、そっと唇を重ねる。 わずか1秒の触れるだけのキス。 『離れたくない』と言葉にしてしまうのを止めるには、充分なキス。 目を見開き、驚きを隠せない壱吾を真っ直ぐに見つめると、 「休みには、広島まで会いに行く。毎日電話もするから」 想いは確かめ合ったけど、その先の約束は口にしていない。 私はぐっと覚悟を決め、想いをカタチにする。 「………私、頑張るから。遠距離になっても、負けないから……だから、私とーー」 そう口にしたところで、壱吾が眉を寄せていることに気付く。 「……ちょっと待って。遠距離ってなに?」
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