最後の嘘。

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予想外の返事に、私まで眉間に皺が寄る。 「え、なにって……壱吾、広島に転勤なん、…だよね?」 「は?……俺、転勤じゃなくて、出張で広島行くだけだけど」 「………えっ?……しゅ、出張ぉ!?」 ………ちょっと待って。え、どういうこと? 「え、だって、有紗達が今日11時半の新幹線で行っちゃうって……」 「11時半?…俺、元々この新幹線で行く予定だったけど」 なにがなんだかわからずに愕然とする私を見て、一足先に全てを理解した壱吾が笑う。 「まんまとやられたな」 「嘘……。もう、しんっじらんない…………」 ヘナヘナとその場に蹲ると、さっきまでの必死な自分を思い出して恥ずかしくなる。 だけどそれ以上にホッとしたのと嬉しいのとで、頭の中はぐちゃぐちゃだ。 「ほら」 蹲る私の前に壱吾の手が差し出されると、私はそれに掴まり立ち上がる。 「ごめん、香音。もう時間ないから、今はこれしか言えないけど……」 そう言って、きゅっと指を絡ませると、 「俺と、付き合ってほしい」
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