最後の嘘。

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それは、私達が付き合い始めたあの時と同じ台詞。 もうなにも迷いなんかない。 「………はい」 やっと……やっと頷くことができた。 私達は互いに、はにかみながら笑う。 「帰ってきたら、ゆっくり話しよう。……じゃあ、行ってくる」 「うん。行ってらっしゃい」 ギリギリ乗り込んだ新幹線のドア越しに壱吾に手を振り、別れる。 動き出した新幹線はあっという間に私の前を過ぎ去り、見えなくなったあとも何故かその場から離れることが出来ず、しばらくぼんやりと佇んでいた。 今日一日で、目まぐるしいくらいに状況が変わった。 騙された形にはなってしまったけど、みんなの後押しには感謝しかない。 有紗達の顔を思い浮かべながら、私はハッと気付く。 「……やば!紅葉まんじゅう、頼むの忘れた!」 慌てて鞄の中を探り、携帯を手にすれば、すでに1件のメッセージが表示されていた。 それを見て、思わず口元がニヤけそうになるのを手のひらで隠す。 あなたがくれる言葉は、全てが特別なものになる。 それはきっと、この先もずっと変わらない。
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