最後の嘘。

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そういえば以前、壱吾が同じことを言っていたのを思い出す。 「その時はまさかその"ずっと好きな人"が、香音だとは思わないし、香音の元彼が羽村さんだなんて想像もしなかったけど……。まぁ……あんな場面見せられたら、嫌でも気付くよね。なのに香音は振っちゃうし。好きなくせに何考えてんの!?ほんとふざけんな!って感じだよね」 腕を組みながらジトっとした目を私に向ければ、小さく溜息を零す。 「さっさとくっついてくれなきゃ、こっちも諦めるに諦められないじゃない?…だから、素直じゃない香音に素直になってもらおうとあれを計画したの。有紗から羽村さんが出張に行くことは聞いてたし、素直になるには、会えなくなるっていう嘘が手っ取り早いでしょ?」 確かに瑞妃の言うことは否定できない。 私は、まんまとその思惑通りに動いてしまったんだから。 「効果は抜群だったから良かったよ。余計なお世話かもしれないけど、後悔だけはして欲しくなかったし、……やっぱり好きな人と大事な友達には、幸せになってほしいじゃん?」 そう言って瑞妃は笑うけど、私の目には涙が浮かぶ。 瑞妃がどんな気持ちで背中を押してくれたのか、私はなんにも知らなかった。
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