壱吾Side*プロローグ

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寝言でまでその名を口にしていたとは……。 思わず失笑が漏れる。 「結局、私のことなんて最初から好きじゃなかったってことでしょ?…その忘れられない彼女にでも似てる?」 わかりやすく冷たい視線を向けられ、俺は黙り込む。 それは肯定しているのと同じ。 「………否定、しないのね」 静かに怒りを滲ませる彼女は、吐き捨てるように俺に言葉をぶつけた。 「本当、バカにするのもいい加減にしてよ!いつまでその女に執着するわけ!?なにがそんなにいいのよ!顔?性格?身体?」 「お前には関係ない」 次の瞬間。 勢い良く俺の頬が叩かれる。 「……っ、その女の名前は呼ぶくせに、私は『お前』なのね」 彼女は床に落ちた下着と服を手早く拾い上げると、ソファに置いた鞄を勢い良く掴む。 「……こんな男だと思わなかった。最っ低!!お望み通り、別れてあげるわよ!」 バタン!と力任せにドアが閉められると、俺は深い溜息を吐きながらベッドに倒れ込む。 ぼんやりと天井を見上げていると、バスルームで着替えを済ませた彼女が部屋を出て行く音が耳に届いた。
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