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部屋を出て、真っ直ぐ進んだ突き当たりの角を左に曲がったところに化粧室がある。
さすがに真正面で待つわけにはいかなくて、少し離れたところの壁に寄り掛かる。
………まだ帰ってねえよな?
こんなところで待ち伏せされるのは、女性にとっては嫌だろうけど……。
今の俺には、なりふり構っている余裕はない。
会いたくて会いたくて仕方なかった人が、すぐそこにいるんだから。
それでも、少なからず不安だってある。
"大嫌い"だと言われて終わった恋だから、あからさまに嫌な顔をされるかもしれないし、俺とは話したくないかもしれない。
そんなことを考えていると、カチャ…という音と共に香音が姿を現わす。
俺の存在には気付かずに、さっきの部屋ではなくお店の入口へと足を向ける。
「………帰るの?」
その背中に向かって言葉を投げると、一瞬、ビク、と肩が揺れ、進めていた香音の足がピタ、と止まる。
「………香音」
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