再会

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「羽村、早速どこ行ってーー」 「すいません、主任。急ぎの仕事を思い出したので、お先に失礼します」 まるで今の電話で思い出したかのように装うと、俺は財布の中から一万円札を取り出し、主任に手渡す。 「えっ、羽村さん帰っちゃうんですか…?」 鞄を手にした俺を、目の前の相田さんが焦ったように見上げる。 「すみません」と苦笑いで頭を下げてから、そそくさと部屋を後にしようとすると、 「悪い、遅れた……っと。あれ、羽村帰るの?」 タイミングよくドアが開き、仕事を終えたであろう先輩がやってきた。 先輩と会うのは、あの日以来。 「……ちょっと仕事を思い出したので」 「あ、そう。残念」 つい構えてしまった俺とは違い、先輩は何事もなかったかのような態度で「じゃあ、気をつけて」と俺の肩にポンと触れると、主任達の方へ向かって行く。 入れ替わるように部屋を出れば、俺は急ぎ足で駅へと向かった。
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