再会

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「……あげます。煮卵、好きでしょ」 たったこれだけのことが嬉しくて仕方がなくて、自然と口元が緩んでしまう。 確かに存在していた俺達の時間。 一つでも覚えていてくれたことが、何よりも嬉しかった。 *** 店を出た俺達は大通りまで並んで歩く。 「送る」と言う俺に対して、首を横に振る香音。 「先輩には送らせて、俺には送らせてくれないの?」 先輩が送ったかどうかなんて知らない。 だけど、咄嗟に出た俺のハッタリに香音がグッと押し黙ったのが答えなんだろう。 俺はそのまま手を掴むと、駅に向かって歩き出した。 駅までの道で繰り広げられるのは、こんな茶番をいつまで続けるかどうか。 香音も意地になっているのか、全く折れる気配がない。 「……ほんと素直じゃないね。そういうとこ、俺の元カノとそっくり」 こんな揺さぶりにも顔色一つ変えない香音に、つい意地悪をしてみたくなった。
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