再会

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バッと手を振り払われ、ゆっくりと香音が俺を見上げる。 その表情は思い出したくないことを思い出したような苦い、切ない顔をしていた。 「……香音、あんな嘘をついてまで、俺とのことはなかったことにしたい?」 長い沈黙がまるで肯定されているみたいで、チクチクと刺すように胸が痛み始める。 「俺は今も納得してないよ」 あの日から六年経ったのに。 俺は未だに前へ進もうとせずにいる。 「………もう、終わったことだよ」 そう言った香音が、悲しげな顔で笑う。 「………ごめんね、壱吾」 そのまま香音は背を向け、アパートの中へと消えていく。 久し振りに呼ばれた名前が、耳元で悲しく響いて消えない。 「………終わったこと、か……」 一人取り残された俺を嘲笑うかのように、まだ冷たい夜風がそっと頬を撫でた。
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