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多分、これは貸しイチ。
だけど、今の俺に断るという選択肢はない。
「サンキュ、兄貴」
香音が好きだった和菓子屋のいちご大福を手に、急いで家を出る準備をする。
そんなに急ぐ必要はないんだけど、気持ちが前へ前へと急かす。
「壱、頑張れよ」
まるで後押しするように、玄関を出る俺の背に兄貴の声が届いた。
「……ああ」
小さく頷き、一歩前へ踏み出す。
ドアが閉まる音を背中で聴きながら、外の空気をめいっぱい吸い込み、俺は駅へと向かった。
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