決断

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突き飛ばされる覚悟で香音の腕に手を伸ばすと、一気に自分の方へと引き寄せる。 そのまま片腕で香音の身体を包み込むと、ギュッと抱きしめた。 香音の匂いが、柔らかさが、瞬時に幸せだった日々を思い出させる。 好きで好きで仕方ない気持ちが、一気に溢れ出す。 グッと唇を結び、香音を包んでいた腕をそっと解くと、手にしていた小さなビニール袋を香音の前に差し出した。 「………やる」 押し付けるようにして香音の手に握らせると、振り切るようにして駅に向かって歩き出す。 今もしっかりと残る香音の感触に、身体中の熱が冷めない。 「っ、クソ……」 ギュッと締め付けられる胸の痛みも、 行き場のない感情も、苦しいのに愛しい。 「好きだ……」 今はまだ伝えられない想いを、夜空に向かってそっと吐き出した。
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