2052人が本棚に入れています
本棚に追加
「桐生さん、香音が苺好きだって、よく知ってましたね」
それに対して先輩は、なんてことなくサラリと答える。
「この間、二人で食事した時に教えてもらったんだよ」
”二人”という部分をわざわざ強調した言い方に、当然主任達はザワザワと騒ぎ出す。
一応、あの日のことを知っている俺は、特に気にすることなく、手にしているノンアルコールビールを傾ける。
だけど、先輩の次の言葉に手にしていた缶を落としそうになった。
「水族館デートも楽しかったよね。展望台から見た景色も、観覧車から見た夜景も綺麗だったし」
………………は? すい……ぞくかん…?
先輩の方を見ればニコニコと笑顔を浮かべていて、周りは先輩と香音の関係について盛り上がりをみせる。
当然俺は面白くなくて、その場から立ち上がると、香音の方へ向かった。
「好きだね、苺」
そう声を掛ければ、香音は一瞬驚いたあと、口元をキュっと結ぶ。
まるで『知ってるくせに』とでも言いたげなその顔は、ほんの少しだけ俺を優越感に浸らせる。
最初のコメントを投稿しよう!