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一歩前に足を踏み出すと、香音の肩がビクっと揺れる。
「………な、んで、そんな、こと……聞くの……?」
「俺にとっては大事な思い出だから、香音にとってはどうなんだろうと思って」
頭の中に呼び起こされるあの日の記憶は、まだ鮮明なまま。
香音との距離感、体温、そして胸の高鳴りですら、忘れたことはない。
「…………もう、昔のことだから……」
俯き、そう呟く香音の腕を掴むと、ぐっと自分の方へ引き寄せる。
「昔のことだから、って言えば俺が納得すると思ってんの?」
見下ろした香音の瞳に映る俺は、最高に格好悪いだろうな。
けれどもう、止めることは出来ない。
「俺はこの六年、香音のことを忘れたことなんか一度もねーよ」
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