嫉妬

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「……全っ然出ねえ」 さっきから何度か電話をかけているのに、長い長いコール音が流れ続けるだけで、一向に香音が電話口に出ることはない。 もうすでに香音のアパートの近くまで来ていて、何だか前にもこういうことがあったな…なんてことを思い出す。 そんなことを考えながら歩いていると、あの時と同じように一台のタクシーが俺の横をすり抜けていった。 「まさか香音………なわけねぇよな」 そんな偶然、そう何度もあるわけない。 けれど、タクシーはブレーキランプを灯らせ、アパートの近くに停車した。 俺は少し歩くスピードを早め、タクシーとの距離を縮める。 ドアは開いているのに、まだ人影は見えない。 向こうの方からやってくる対抗車が、タクシーの横を通り過ぎる瞬間。 ライトで照らされ、浮かび上がるふたつの影。 その影は、重なっているように見えた。
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