嫉妬

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思わず顔を背け、立ち止まる俺は、嫌な予感に胸がザワつき始める。 ……………香音じゃ……ないって。 そう思う俺の思いなんか簡単に打ち砕くように、タクシーから降りてきた人影は、紛れもなく香音だった。 …………ほんと、こういう勘だけは当たるんだよな。 静かにタクシーは走り出し、それを見送ったまま動かない香音の背に、俺は静かに言葉を投げる。 「…………いつまで突っ立ってんの?」 「……え、壱吾…?」 こちらに気づいた香音は、驚いた表情で俺を見上げる。 「何度も電話してんだけど。気付かねーの?」 俺の口からは、思った以上に冷たさを含んだ声色が零れる。 香音は急いでカバンの中からスマホを取り出し、画面を確認すると 「ごめん……全然気付かなかった。もしかして、結構待ってたの?」 「……今着いたとこ」 申し訳なさそうにする香音と目が合うと、徐ろに視線を逸らされた。
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