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流れる雫が、俺を冷静にさせていく。
言いようのない悲しみが、俺を襲う。
「…………泣くほど嫌かよ………」
張り裂けそうな思いを隠し、香音の乱れた衣服を簡単に直すと、親指でそっと涙を拭った。
「…………ごめん」
それだけ呟くと、倒れたカバンを手に部屋を出る。
アパートからしばらく歩いたところで、ふいに立ち止まり、自分の手のひらに視線を落とした。
触れた温もり、柔らかさ。
同時に、罪悪感と恋の終わりを予感する。
泣かせたくて、会いに行ったわけじゃないのに。
自分の思いを何ひとつ言葉にせず、感情のまま動いた自分を殴りたい。
「………そりゃ…香音も先輩を選ぶって……」
負けたくなかった。
だから、いつも必死だった。
少しは近づけたと思っていたのは、やっぱり俺だけだった。
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