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古びた門。茶色く錆び付いた鉄格子、その向こうに廃屋と化した瓦礫の館が佇む。
屋根は崩れ落ち、外壁も剥がれた館の一室。
ボロボロに破れた蒼いベルベット生地の三人掛けソファ、その上にルナは横たわっていた。
金色の塗装が剥げた肘掛けに頭を預け、ルナは瞼を重苦しそうに閉じたままだ。
「はぁ…すごい、すごくいい香りがする……」
気を失ったままのルナに顔を寄せて深く息を吸うと、少年はうっとりと溜め息を吐いた。
魔犬に付けられた嚼み傷からは赤い血が今も滲む。少年はそこに目をやると、そっと舌を這わした。
「……っ…」
舌先で掬った赤い滴を口にした瞬間、少年の喉が大きくゴクリと動き少年は驚きと同時に目を見開いたのだ。
「すごい…っなんて甘いんだろう……」
思わずルナから身体を離し、少年はルナの姿を脚先からゆっくりと眺めた。
とろけるように甘く、口の中にまったりとした舌触りが延々と残る。
一雫、口にしたら後をひいて堪らない。
少年は口の中に残る味をもう一度かみしめると熱い吐息を漏らした。
惜しい──
こんなに極上の味を一晩ですすり尽くし、渇らしてしまうのはすごく口惜しい気がする。
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