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もう一度強い風が吹いて、沢山の花弁が舞った時、目の前には誰もいなくなった。
そこには、私と桜の木だけになっていた。
『どうしてそんなことをするの? どうして悲しいことをするの?』
「わからない、でも、そうしないと一人になってしまうから」
『大好きな人間になったはずなのに? どうして一人は嫌なの?』
「わからない、でも、寂しいのは嫌」
『じゃあ……戻っておいでよ』
また強い風が吹いて、今度は目の前に二人の人間が現れた。
いつ見ても笑っている男と、優等生ぶっている女。
そんな二人が揃って、それはそれは嬉しそうに笑ってて、手にしたナイフを見せつける。
「ひゃーっ待ってたよ、待ってた待ってた! 美しい人間になれなかった人間を!」
子供のようにはしゃぐ男はスキップしながら私の周りを回る。
「だから言ったのに、もう少し観察してから人間になりなよってさ」
溜息ついてもその表情は全然残念がらない女、ゆっくりと出した赤い舌が唇を舐める。
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