三時間の迷走

3/12
455人が本棚に入れています
本棚に追加
/269ページ
「すまん、遅刻した」 姿が見えないまま、男の声だけが聞こえる。 遅刻した、と言っておきながら、その声に反省の色はなく、笑いさえ含んでいそうな声音だった。 「あんたなぁ!」 自分から呼び出しておいて遅刻するって、どういうことだ! いつまでも黙って首根っこを掴まれている俺では無い。 この苛立ちをあんたにぶつけてやる! そんな勢いで俺は男の方を振り返った。 「おお、どうした?よしよし、落ち着こうな」 一発殴ってやろうと思っていたのだが、思わず、拍子抜けしてしまった。 急に、自分より背のデカイ外人に抱き寄せられたのだ。 俺の身長は一メートル八十二センチ、恐らく、この男の身長は一メートル九十センチに近いだろう。 「なにしやがんだ!」 慌てて俺は男を突き放した。 「なにって、ハグだろ?ただの挨拶だから、これ」 大袈裟に両手を広げ、惚ける男。 やっと、男の背格好が確認出来た。 アッシュグレーの髪にブルーの瞳。 王子と言われれば王子に見え、モデルと言われればモデルに見える。 ただ、別にオシャレな格好をしている訳ではない。 白のワイシャツノーネクタイに紺のスラックスというシンプルな服装だ。 それにしても外人の考えることは、よく分からんな。 今のこれにしろ、顔の見えない相手を呼び出したりするにしろ、まったく意味が分からない。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!