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「すまん、遅刻した」
姿が見えないまま、男の声だけが聞こえる。
遅刻した、と言っておきながら、その声に反省の色はなく、笑いさえ含んでいそうな声音だった。
「あんたなぁ!」
自分から呼び出しておいて遅刻するって、どういうことだ!
いつまでも黙って首根っこを掴まれている俺では無い。
この苛立ちをあんたにぶつけてやる!
そんな勢いで俺は男の方を振り返った。
「おお、どうした?よしよし、落ち着こうな」
一発殴ってやろうと思っていたのだが、思わず、拍子抜けしてしまった。
急に、自分より背のデカイ外人に抱き寄せられたのだ。
俺の身長は一メートル八十二センチ、恐らく、この男の身長は一メートル九十センチに近いだろう。
「なにしやがんだ!」
慌てて俺は男を突き放した。
「なにって、ハグだろ?ただの挨拶だから、これ」
大袈裟に両手を広げ、惚ける男。
やっと、男の背格好が確認出来た。
アッシュグレーの髪にブルーの瞳。
王子と言われれば王子に見え、モデルと言われればモデルに見える。
ただ、別にオシャレな格好をしている訳ではない。
白のワイシャツノーネクタイに紺のスラックスというシンプルな服装だ。
それにしても外人の考えることは、よく分からんな。
今のこれにしろ、顔の見えない相手を呼び出したりするにしろ、まったく意味が分からない。
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