八七六〇時間の忘却

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それを暗示と言うのだろう? 負の暗示だ。 精神が病んだ人間は自分の言葉だと理解出来ない。 すべて他人からのプレッシャーだと、脅迫だと、思い込む。 俺もギリギリなところまで来ていた。 もう少しで、自分が自分ではなくなるところだった。 今の俺は割と落ち着いている。 仕事は、役所の向かいにある古い喫茶店の手伝いだが、良い場所だ。 家からも近い。 何故、そんな場所で働くことになったのか。 俺も初めは人生を修復しようと必死に転職活動をしてたんだが、面接する上司が皆、雰囲気が前の上司に似ていて、ぶん殴りたくなってしまうために断念した。 彼等が悪い訳では無いが、申し訳ない。 忘れられないんだ。 転職活動を断念した日、俺は面接からの帰りにその古惚けた喫茶店を見つけた。 外観は周りの景色と全く合っておらず、まるで昔の外国人の家みたいだった。 窓には一枚の張り紙。 白い藁半紙に何故か墨で『老夫婦、助け、要』とだけ書かれていた。 ────ろうふうふ?たすけ、かなめ? 最初は暗号かと思ったが、暫くして、ああ、助けを必要としているのか、と気付き今に至る訳だ。
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