八七六〇時間の忘却

5/17
前へ
/269ページ
次へ
オーナーの夫婦は、温和な細身で小柄な婆さんと頑固で年の割に俺より少し低いが背のデカイひょろっとした爺さんである。 頑固ではあるが、婆さんの方が強い。 役所の目の前に位置し、周りに他の店が無いため、昼はいつも混む。 それを老夫婦だけでやっていくのに限界を感じたのだろう。 昔の人間は、今の人間と違って、ちゃんと人を育てようとする。 真剣に、必死に、指導してくれる。 俺は、それを見て、二人に必死に何かを返さねばならないと思った。 だから、俺は全ての作業を一度で覚えた。 前の仕事とは全く違うが、身体が動いている分、頭では何も思い出さなくて済むし、ほぼ毎日美味い飯は食える分、俺は満足している。 そう、満足しているのだ。 しかし、俺は今日、ズル休みをしてしまった。 理由は……、喧嘩をしたからだ。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

462人が本棚に入れています
本棚に追加