八七六〇時間の忘却

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◆ ◆ ◆ 仕事へ向かおうと何気なく道を歩いていて、俺は急にハッとした。 同じ場所に住んでいれば、いつかは遭遇するかもしれないと思ってはいたが、まさか、こんなにも早く顔を合わせることになるとは。 アイザックだ。 目の前から、奴が歩いてくる。 平日の午前九時、一体、こんなところで何をしているのか。 互いの距離は二メートル。 気が付いているのは俺だけだろうか? こんなに近いのに、奴は真顔で……そのまま俺の横を通り過ぎて行った。 「おい!」 奴の背中に声を掛けたが、振り返らない。 まるで、自分は関係ないと言っているかのように。 まさか、俺を忘れたんじゃないよな? 「アイザックさん!」 知らないフリをするべきだったのかもしれない。 そうすれば、何も失わずに済んだのかもしれない。 「君は、誰だ?」 ゆっくりとこちらを振り返ったアイザックが、不思議そうな顔をして言ったのだ、はっきりと。
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