八七六〇時間の忘却

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◆ ◆ ◆ たった一ヶ月と何日か前に訪れたはずなのに、その場所はとても懐かしい気がした。 座った席から窓の外を見れば、縦縞駅の改札が見える。 今日も駅前は閑散とし、天気が良いにも関わらず、誰も歩いていない。 駅前の静けさは俺とアイザックの居るカフェを包み、カフェの静けさは俺とアイザックを包み込んだ。 あの日と変わらない。 俺とアイザックの前には、あの日と同じ、パンケーキとアイスレモンティーが置かれている。 変わったのは、目の前に座る人間の記憶が一年分欠損しているということだけ。 俺の存在だけが、あんたの中から抹消された。 記憶を失くしたからといって、俺をストーカーしていたという事実が消えるわけではない。 それでも、アイザックを無視出来ないのは、奴が俺の所為で事故に遭ってしまったということを知ってしまったからだ。 俺があんたの中から俺に関する記憶を消してしまった。 「……あんた、なんで俺のこと無視しなかったんだ?」 フォークとナイフを持ち、パンケーキを切ろうとするアイザックに問い掛けた。
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